本、読み終えた。デイヴィッド・A・ホワイト『教えて!哲学者たち 子どもとつくる哲学の教室』
本書目次(上巻)パート1 価値についてパート2 知識について(下巻)パート3 実在についてパート4 批判的思考本記事目次問題演習型1、文章が用意周到2、問題演習が地味に考えさせられる3、親や教師への配慮もある
「ぼく、哲学が大好きだよ。議論をしてほめられる授業なんて、ほかにないからね!」(4ページ)
問題演習型
哲学は誰にでもできることだ、いろいろな哲学書で見かけることです。しかし他の人が考え抜いたことを一気に、本を読むことで理解するのは容易ではありません。
理解の方法論としてあるのは、わかりやすく書くか、あるいは考えさせるように書くかの2通りではないでしょうか。本書は後者。つまり問題演習型の本です。
著者は現在10代を中心に哲学を教える教職にあられる方のようです。
特徴を3点整理したいと思います。
1、文章が用意周到
大人だけでなく、子供用にも書かれているため、文章が平易です。また訳者は児童書を多数翻訳されている方が担当しているので、気遣いが行き届いていると思います。
しかし平易なだけではありません。哲学に哲学用語はつきものです。当然難しい部分もあります。そのため巻末には使用された哲学用語の索引が掲載されていて便利。
その部分は本文とは違って、少し難しい……言うなれば、哲学チックな説明になっています。決して哲学を勘違いさせない意気込みを感じます。
2、問題演習が地味に考えさせられる
上下巻合わせて40問が用意されています。たとえば第1問目はプラトンの『国家』に出てくる正義を引き合いに、「きみは公正で正しい人だろうか?」というものが出題されます。
さてこれを問題演習型でとりかかるのですが、はじめにこんな問いかけがあります。
計算機を友達から借りたが、返して欲しいと言われた。どうするか。
ここでA〜Dまで選択肢が用意されます。それは自分が必要だから断るとか、言われたから返すとか、一般的な選択肢です。
このように自分が下した選択が、実は哲学的な思考対象であることをまず気付かせる方式なのです。
従来あった、日本型の道徳の授業ではここまでだったと思います。しかも「こうするのが正しいのだ」と強調するのを忘れないタイプの。
しかし本書では自分の選択が必ずしも正解ではない可能性を示唆することを忘れません。
たとえば計算機持ち込み不可のテストがある前に、カンニングする気満々である友達が「計算機を返してくれ」と言われたら、返すべきでしょうか?
大人でも「確かに」と思わせるものが豊富にあります。
3、親や教師への配慮もある
巻末には「先生とおうちの方への章」というものがあり、それが授業の進め方、留意すべき点について書かれています。しかも一つ一つの出題に関して細かい記述があります。
ここまで哲学を教育に組み込むのに役立つ構成をしている本は、今までなかったのではないでしょうか?
家庭で子どもがこの本に取り組むかはともかく、哲学の敷居を低くするのに大いに貢献する新書であることは疑いないでしょう。