On bullshit

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本、読み終えた。レナード・ムロディナウ『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』

 

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する

 

 

本書目次
プロローグ
第1章 ランダムネスという不思議な世界
 ベストセラーは「たまたま」生まれる?
第2章 「それっぽい」話の危険性
 真実と「一部」真実の法則
第3章 直観はすべての選択肢を把握できない
 カルダーノの「標本空間」がもつ威力
第4章 「たまたま」成功する確率を知る
 パスカルの果たした二つの貢献
第5章 大数の法則と小数の法則
 何人調べれば当選は確実とわかるのか?
第6章 「あなたが死ぬ確率は1000分の999!」
 ベイズ的判断と訴追者の誤謬
第7章 バラツキを手掛かりに真実をつかむ
 測定と誤差の法則
第8章 ランダムネスを逆手に取る
 カオスの中の秩序
第9章 パターンの錯覚と錯覚のパターン
 「偶然」の出来事に勝手に意味を見いだす
第10章 ドランカーズ・ウォーク
 ランダムネスとうまく付き合っていくために
訳者あとがき
 
本記事目次
ジャズにハマった話
本書の筋書
確率の話
意味付け・関連付けの長所と短所
私たちのたまたまが変わるかもしれない
 

 

 ジャズにハマった話

 高校生の時、バイト代で月8万円を稼いでいました。計画を立てても崩れていく計画性のない私はそれでもお金が足りませんでした。
 注ぎ込んでいたのはゲーセンと熱帯魚。趣味の熱帯魚は、世話をして綺麗になった水槽*1を夜にライトアップして眺めるのが好きでした。
 友達の影響でV系にハマっていましたが、古代魚にはマッチしていませんでした。他のジャンルが必要でした。しかし生憎ゲーセンの激しい曲しか知らなかったのです。
 ふと思いつく。「ジャケ買いで気に入る曲があるかもしれない」
 私はTSUTAYAブックオフのCDコーナーを漁りました。たまたまジャズに触れたのはその時です。(UKファンクとしてもよい)SPEEDOMETER.*2*3の『FOUR FLIGHTS UP』とか『THIS IS SPEEDOMETER』のジャケットを気に入ったのでした。後にはジャズ・ファンクに分類されるベイカー・ブラザーズも聞くようになりました。

 

フォア・フライツ・アップ

フォア・フライツ・アップ

 

 

This Is...Speedometer

This Is...Speedometer

 

 

ディス・イズ・スピードメーターVol.2

ディス・イズ・スピードメーターVol.2

 

 

イン・ウィズ・ジ・アウト・クラウド

イン・ウィズ・ジ・アウト・クラウド

 

 

 それからも年代順や名曲だけという縛りではなく目に付いたものをジャケ買いしていきました。でも量販店だから程度は知れる。つまり大量に散らばった名曲たちである、ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』やチェット・ベイカーの『AUTUMN LEAVES』を聴くことになったのです*4

 

WALTZ FOR DEBBY

WALTZ FOR DEBBY

 

 

チェット・ベイカー・シングス

チェット・ベイカー・シングス

 

 

 当時の私は「自分にはセンスがある!」とバカ正直に思っていました。偶然とは考えていなかったのです。
「多くのCDジャケからこれを選んだんだ。駄作なわけがない」と本当に思っていた。必然だと*5
    でもそれはミュージシャンのセンス、レコード会社や店員の目利き、あるいは中古で売られたものを私が買ったに過ぎなかったのです。
 どれだけ音楽のCDがあると思っているのか。お気に入りのCDを探り当てる確率は途方もないことになります。しかしそれがジャンルごとに絞られたら確率は必然的に上がるはずですよね。
 たまたまではありましたが、今は暇なときに垂れ流すのが定番の聴き方になっています。ではその「たまたま」とは学問の目で見てみるとどうなるのか?それが本書となります。
 
 

本書の筋書

 最初は主に20世紀における偶然の出来事を例示されます。それからランダムネス*6の歴史へタイムスリップ。人々が歴史的現場で「たまたま」を科学し始めるという流れをみていきます。
 それからは確率論の世界へ。大丈夫です!あなたの首を右に90度へし折るか、あるいは本を左に90度回転させなければならないような数式や記号は書かれていません。計算は著者がやってくれます。読者は「あぁ確率低いな(高いな)」と思うだけでOKです。
 確率論的な話を脱すると、今度は人間のたまたまの認識の仕方の話になります。つまり偏見の話。
 
 私たちは数学的な確率を導くことはできるが、それを正しく認識するのはとても難しいこと。そして正しく認識していてもなおそれに逆らうような認識の仕方をしてしまうことの2点が大まかな筋です。株価予想や選挙、ベストセラーなどなど身近な話がたくさん出てきます。
 
 

確率の話

 確率で有名な話といえばモンティ・ホール問題でしょう。簡略化するとあなたの前には3つのドアがある。2つははずれ。残りの1つには車がある。見事そのドアを開ければ車はあなたのモノになる。
 任意に一つ選ぶ。するとあなたが選ばなかった2つのうち1つのドアが開けられる。当然何もない。しかし「残りのドアの2つどちらを選ぶかもう一度選択権を与えます」と言われます。あなたは最初の選択から変えるべきでしょうか?
 3つの中から選んだのだから3分の1。それから2つのうち1つがあたりなのだから確率は2分の1?だからどちらを選んでも確率は変わらないはず?
 ところがギネス世界記録で『世界で最もIQが高い』(IQ228)ということで登録されたマリリン・ヴォス・サヴァントは「選択を変えたほうがあたる」と回答したのです。
 
 考えてみましょう。ドアを開けるのに車があるドアを開けるわけにはいかない。つまりこれは「3分の1という全くランダムな状況に、開けてはならないドアを意識したランダムではない行動が介入した」ことを意味します。
 最初に選択したドアにし続けるなら、あたる確率は3分の1です。しかしそうでないならあたる確率は3分の2です。つまりここで自分に求められているのは3分の1コースなのか3分の2コースにいるかという推測であって、2分の1というランダムではない。
 こういう話と解説がてんこ盛りです。裁判における確率の話もでてくるのでためになるかも。
 
 

意味付け・関連付けの長所と短所

 今度は偏見の話。どうやら私たちは、情報によって結果を歪めてしまうようで。
 自分が支持する学説などについて勉強する際、それが覆されるような事実が発覚したときでも重箱の隅を突く。あるいは根拠に欠けていても自分を支持する情報を信頼してしまう。感情的には十分に起こる話です。
 人間は全くランダムな物事を大量に覚えられる生物ではありません。結果自分に関連するものと結び付けて覚えようとします。長期記憶できます。生存に必要です。しかしそれは事実と違うわけでここに偏見の萌芽が生まれます。しかも一度それで覚えてしまうと後々事実が発覚しても認めようとしない。
 本書では偽の精神病患者(健常者)を診察させたのですが、ネタバレをしても信じようとしないという実験の話があります。健常者の散歩と精神病患者の散歩。なんだか散歩のイメージが変わってしまいますよね。
 
 

私たちの「たまたま」が変わるかもしれない*7

 たまたまという自然現象に「合理的なたまたま」という事象が加わるのではないかと思います。どういうことでしょう。
 人工知能の発達は著しいですね。18歳以上の3人に1人は何かしらの犯罪歴があるアメリカ。そこでは既に裁判所が人工知能を導入しているケースがあります。再犯する可能性を人工知能が叩き出すのです。人工知能を導入後、再犯率が10%減少したとのこと。しかし判断された当の本人は人工知能に行く末を判断されたことを知っていませんでした。
 韓国の研究では研究者を招いて「AI政治家」を育てているそうな。哲人政治は人間を起点としていたが、その必要もなくなったらしい。
 私たちは、たまたまを本当にたまたまだと思っている。しかし裏で人工知能がたまたまのように思える結果のみを叩き出していることを知りもしないで「たまたま」を口にするようになるかも。
 「合理的なたまたま」とは人間的部分を排除したたまたまになっていく。果たして人間にたまたまな未来は残されるのでしょうか。あるいは人工知能が発達する中で、人間はたまたまに耐えられるのだろうか。間違うこともある人間の選択と、確実に結果を出していく人工知能の選択。選択の委託はどこまで進むのだろうか。愚かな人間が登場する小説は良いアクセントだというのに。

*1:ガーネットサンドを敷いて赤系のライトに照らされたポリプテルスやタイガーレッドオスカーと言えばわかっくれる人はいるはずだ

*2:レースゲームにハマっていたので、ジャケがスピードメーターなのも気になった。

*3:過去にみた批評ブログでボロクソに書かれていましたが、私は好きです。そもそもジャズ好きが集まって小さなクラブでセッションをしていたら評判を呼んでデビューに繋がったという経歴です。なので「聞いたことがあるような云々」というネガティヴ批判は行ってもあまり意味はない。UKファンクの弱点である流れが良すぎて小さくまとまるという批判ならなくはないが。

*4:チェット・ベイカー・シングスは必聴です!

*5:こうして勘違いすることをホットハンド誤謬という。完全にランダムな結果を何か特別な能力によるとする勘違いのこと

*6:randomness:偶然性

*7:参考:『人工知能    天使か悪魔か    2017』NHKスペシャ