本、読み終えた。原真人『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』
日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス (朝日新書)
- 作者:原真人
- 出版社/メーカー:朝日新聞出版
- 発売日:2016/11/11
- メディア:新書
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本書目次まえがき 安倍政権は「一発屋」か?終わりに 「財政破綻」という怪獣本記事目次夢はあるか実現させるべきは数字か制度あるいは自然コラム:ピコ太郎さんもったいない
夢はあるか
未だに人気が衰えないcowboy bebopというアニメの劇場版『cowboy bebop天国の扉』では「想像できるものは存在する」という話から、ラストにそれを否定する形で展開されます。
私たちは欲しいものを、いや希望するものを想像します。強く美しい自分、素敵な異性、豪奢な邸宅、誇れる衣食、取り巻く幸せな親類と人間関係などなど。現実よりちょっと違ったものを。しかし、
ヴィンセント「俺は、ここから出たかった。この世界から出る扉をずっと探してきた……。今わかったよ。…扉なんてものどこにもなかったんだ」スパイク「とっくにわかっていたはずだ……。お前は、目を開くのが怖かったのさ」『cowboy bebop天国の扉』より。
映画のラストに英語で「本当の世界を生きているか?」と問いかけて、本篇は終わります。
夢を描くのは人間にとって大切です。私の母はスポーツ系の団体客が泊まる民宿経営を思い描いています。母によればテニスコートやドッグラン付きだそうです。いったいいくらかかるのやら。また、新築の家を建てるときに叶えたい間取りや設備をノートに書き留めています。
難しいのは、その夢は実現可能かどうかということです。私たちはいつも現実に生きています。夢の世界に旅立っても、帰ってくるのは現実の自分、現実の異性、現実の我が家、現実の衣食、現実の人間関係です。
夢は叶えるものと言います。夢が夢のままでは、人は希望する気力を失ってしまうのでは?
本書は安倍政権が描いたアベノミクスという夢を「そんなものどこにもなかった」「とっくにわかっていたはずだ」と気づいてほしい。そういう趣旨になっています。現実で証拠を示すためには歴史が必要です。ページをめくるごとに安倍政権の出来事、言葉が時系列で並べられていきます。「そういえばこういうことも言っていたな」と思い出すことが多い。
実現させるべきは数字か
思い出したこと、気づいたことで考えを改めることは多々ありますが、本書では「やっぱりアベノミクスって……」と誰もが内に秘めていた思いを引きずり出すものです。アベノミクスの内容は当初から別に画期的なことは何もないと言われていました。そして一方ではみんな大体こう思っていたはず。「政策目標なのだから新しいことがなくて当然だ。問題は実現させる方法なのだろう」と。
そして時は流れ、
- アベノミクスは失敗なのではないか?声高に目標を叫んでいるだけのようにみえる。
- 失敗と認めろ。数字は変わらない。むしろ低成長ではないか。
- むしろ「成長」しなくていいのでは?GDPと私たちの生活は関係ないのでは?
- 経済の前に福祉がヤバいぞ。それを森友学園が証明した。国家的成功は「1発」では成り立たない。過去を見ている。
とアベノミクス以外のことにも段々悲観的・無気力が目立ってきました。
みんながお金を使わないから。とは言うけれど、みんな生きるために日々お金を使っています。そして余ったお金を好きなことに消費しています。でも使いたいものがあれば使うけど、それがないから使わない人も多いでは?
そのような考えから政策を提言するのは、大阪大の小野善康特任教授。本書によれば世界があまり注目してこなかったデフレ研究で世界最先端だそう。この人(または本書の著者)いわく、現代は生活に必要なものがそろってしまっている。だから消費者もお金を使うのに知恵がいる時代になったというのです。GDP600兆円は具体的な「夢」だが…。
やるべきなのは消費者が新しい消費の価値に気づくこと。その継続を、政府は下支えしてあげること。たとえば日本では登山、ランニングはあったけどトレイルランニングは近年入ってきて急速にイベントを増やしました。カラーランもそうですよね。どれも海外産ですが、山を走ること自体は価値に気づいてなくてもできる。ネットメディアも多種多様ですね。
滋賀県でも、琵琶湖を眺めるだけでなく利用しようと動いています。湖岸沿いに積極的にカフェなどのスペースを設けようとしています。ある程度必要かな。でも道路から見える琵琶湖の景観がなくなりそうで怖い。でも付加価値ならできるかぎり歓迎したいですね。
価値を認識させる、魅力を育てる。そのための制度を。
制度、あるいは自然
制度。ということで引き合いに出るのが私も読んだことがあるダロン・アセモグルさんの『国家はなぜ衰退するのか』です。日本は今制度で悪目立ちしていると言えそうです。中央銀行(日銀)は本来独立性が高くあるべきですが、安倍政権によって人員采配が極端になっています。政権の邪魔になるものを排除する。しっかりした制度があれば起きなかったはずです。
本書では藻谷浩介さんの『デフレの正体』など、日本で人気になった本がちょろちょろ紹介されてわかりやすい導入になっています。このクッションが、政治経済だけの硬い話をほぐしてくれています。
あとは戸部良一さんの『失敗の本質』も。これは旧日本軍の曖昧な作戦によって失敗したものを研究しています。
また山本七平さんの『空気の研究』では日本にある「空気を読む」ことでおざなりになる背景を論じています。
これらの本は読みました。面白いですよ。
国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/05/24
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デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷 浩介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/10
- メディア: 新書
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- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08
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『デフレの正体』では人口減少が大きな焦点になっています。制度と人口減少と旧日本軍の行い。そしてなぁなぁの空気。ここに共通するのは自然の成り行きということになるのでしょうか?たぶんそう。制度があればその通りにある程度は進む。人口が減少すれば活動が減るのは当たり前。で、アベノミクスはそれに連動しているのか。自然の成り行きに連動しているのか。アベノミクスが疑問視されているのはそういうところなのでしょう。アベノミクスには独特の空気があるのは誰もが感じていると思います。
アベノミクスを批判する本での解決策(?)でよく見るのって、基本的なことが書いてある場合が多い気がします。現実をみろとか、失敗を認めるところから始まるとか。
本書は締めに、結局コツコツやるしかないことを示唆しています。
コラム:ピコ太郎さんもったいない
本書の始まりでは芸人にも一発屋が多いよね、と突っ込んでいます。個人的にピコ太郎さんも一発屋路線に持っていかれてると思います。せっかくジャスティン・ビーバーさんに見初められたのに、メディアで日常会話を話してしまってはカリスマ性や神秘性が損なわれてしまう。もう少し動画内だけの存在でよかったと思う。
人材を育てたり利用したりするのでなく、消費する方向にしか向かってないのは、もったいない。