子育てに役立つ?「発達心理学」の話(暫定版)
本記事目次
心理学も立派な学問
発達心理学とは あくまで役に立つために
基本として知ってほしいこと、あるいはまとめ数
①買い物ごっこ
②順序○子育てに役立つこと
量
①砂糖と水
子育てに役立つこと
空間
①四角形
子育てに役立つこと
時間
①時間はいつも同じ速さで動いているか
②時間と作業を一致させられるか
③時間の単位
子育てに役立つこと
偶然と必然
①子どもは偶然を考えていない
子育てに役立つこと
予測
確率
①シーソー
子育てに役立つこと
因果関係
1、心理的・動機的
2、目的論的
3、現象的
4、溶け込み
5、魔術的
6、善悪的
子育てで役立つこと
7、人口論的
8、アニミズム的
9、力動論
子育てに役立つこと
最後に
参考文献
心理学も立派な学問
www.ted.com
*ページ下に英語テキストが表示されます。
このプレゼンターは、子どもが科学者並みの試行錯誤を繰り返す天才だと主張します。理解ができない言動も、理解できる可能性があるのです。心理学が深層心理だとか安っぽい心理テストだけではないことがわかります。
発達心理学とは
あるいはまとめ
ここでは個々の実験結果を理解しやすくするために、全体的に共通するものを挙げたいと思います。なので最低限ここを見るだけでも収穫があると思います。
・子どもの思考や知能の発達は主に3段階ほどあると言われています。
わかりやすく言ってしまえば、
-
大人が理解できない言動をする時期。
-
大人が理解できるものとできない言動が混じる時期。
-
大人が理解できる言動をする時期。
・子どもは具体的なことと抽象的なことにつながりを持っていない。
よって大人が当然と思っている関係がほとんど通じません。
・子どもは空間的に考えることはできない。
どういう思考をするにしても、概念的(抽象的)思考を行う。
物を隠すと消えたと考える。
●数
①買い物ごっこ
アメ1個を1円として、子どもに1円を何枚か持たせる。
アメと1円玉との対応関係を理解するかを見る。
・4歳ごろまではこの対応関係ができない。
予測もできない。
アメと1円玉を2列に並べて対応関係を理解しやすくさせるとしよう。
これでもできない。
また1円玉をひとまとめにして、
とすると、アメのほうが多いと答える。
・5歳ごろになると予測ができるようになるが、上のように配置を変えると同数とは考えられなくなる。
たとえ、声に出して同数にさせても、同数とは考えない。視覚情報を3Dではなく、2Dのように見ている。「いないいないばぁ」が喜ばれるのと同じである。
・6歳ごろになると配置が違っていても、同数だと考える。
遅い子は7歳ごろになる。
②順序
長さの違う10本の棒を出して、長さの順に並べてもらう。
・4歳ごろまでは正しくできない。
一番大きいのは?と聞くと、一番大きいのではなく、ただ大きそうなのを指す。
・4歳半年~5歳半年ごろになると、試行錯誤の末、正しくできるようになる。
・6歳ごろになると、すらすらできるようになる。
途中から棒を追加しても間違うことはない。
これらは小学校の算数の基礎になる。
○子育てに役立つこと
もしお手伝いを任せて、間違えていたとしても、それは子どもなりの仕事の結果です。大人の都合に合わせたお手伝いをしてもらうなら、単純なものがいいです。
また、お願いするときの言葉づかいにも注意を払うことが大事です。
例:「台所に行ってしゃもじを取ってきて」
↓
「台所に行って。しゃもじを持って。こっちきて」
としたほうがよいこともある。
●量
①砂糖と水
まったく同じコップA,Bに水を同じ高さまで入れる。一方には角砂糖を入れることで、水位が上がったことを子どもに確かめさせる。砂糖が溶けた後、コップの重さなどを聞く。
・8歳ごろまでは、解けて消えると水位はもとの高さに下がると考える。
砂糖が存在として消えると考える。味ももうないと予想している。形が変わると存在しなくなると見ている。
・8~9歳ごろになると、砂糖はそのまま保存されているとわかり始めてくる。
しかし逆に溶けると重さが減ると考えるようになる。
・9歳ごろになると、すごく小さな粒になっただけということを、経験的に理解できるようになる。
これは体積の概念の下地になる。
○子育てに役立つこと
子どもが何かを容器に入れすぎている場合は、形が変化するものを入れているかもしれません。何かお願いする場合は、柔らかいもの・形が変化するものを扱うものかどうか、考えてみるのもアリです。
●空間
①四角形
紙にある程度の大きさの四角形を書いておく。その中にできるだけ小さい四角形を書いてと指示する。
・4歳ごろは大きさをバラバラに書く。
・5~6歳ごろは小さくするという方向性が定まってくるが、すぐに極小の四角形を書くことはできない。
・7~8歳ごろになるとすぐに小さな四角形を書き、まだ大きいと愚痴をこぼす。
・10歳ごろになると、もういうまでもなくできる。
これは具体的な思考・作業から、頭の中で行えばおそらく無限に続くだろうという概念的思考への架け橋となっている。
○子育てに役立つこと
子どもにとって、大きい小さいというのは、すごく難しい概念です。
相対的にしか理解できない言葉を理解させるのは時間を要します。例:軽い重い、速い遅い、高い安い、高い低いなど。
言葉で受け取ったことを、頭の中で抽象的なものとして捉え、それを具体的なビジョンに下ろしてくることは高度な技術なのです。
「~みたいに」などのような、身近なものにたとえたほうが、まだ近道です。
●時間
①時間はいつも同じ速さで動いているか
ビーズを一つずつ、箱から箱へ移す作業を与え、同時に砂時計を置く。作業の速さは遅くしてもらったり、速くしてもらったりする。
・5~6歳ごろは、
「作業を遅くすると砂時計はゆっくり流れた」
「速くしたら速く流れた」と言う。
②時間と作業を一致させられるか
-
砂時計(30秒)=A
-
方眼紙=B
-
ストップウォッチ(秒針)=C
を用意する。30秒間で方眼紙にどれだけの線を描けるかやってもらう。ただし、メトロノームの1拍子(1秒)につき、線は1本しか引いてはならない。この状況で何本引けるか聞く。
つまり、必ず30本しか線は引けない。これはA=B,A=C,よってC=Bということが理解できていないとわからない。
・8~9歳ごろでもできないことが多い。
「ストップウォッチの針が、砂よりも速いから(30本よりも)長く線が書ける」と言ったりする。
「時計の針が、砂よりもたくさん動くから、(30本よりも)長い線が書ける」と言ったりもする。
子どもにとっての公式は、速さ=長さ×時間なのだ。2つの異なる時計が違う運動をすると、途端に間違ってしまうのだ。
③時間の単位
メトロノームとストップウォッチを用意する。メトロノームを1拍子(1秒)毎に15まで数えさせる。そのときストップウォッチの秒針を見させるようにする。
-
「速く数えたから、針もすぐに来る」
-
「速く数えると時計はゆっくり動くし、ゆっくり数えると時計は速く動く」
と言う。
○子育てに役立つこと
子どもにとって時間の測定はとてもつもなく難しいのです。時間と速さの反比例関係もわからないので、時間の意味を理解できません。
また、4~6歳ごろは年齢を背の高さと関係付けたりします。大きくなったら年齢は固定されるという考えを持っている子もいます。
もし、時間が関わることで、子どもと対立したら、
-
どういう時計が近くにあったか?
-
どういう時間の考えを持っているか?
などを前もって知っておくとよいと思います。
●偶然と必然
①子どもは偶然を考えていない。
宝くじに当たれば、
-
「くじの引き方が上手い」
-
「よく考えて、あたりとはずれを選んでいる」
-
「はずれる人はイジワルだからはずれた」
などと考えている。
これは「やればできる子」という大人からの教育の影響を、そのままあてはめようとしている。7~8歳ごろは能力的な見方で、9~11歳ごろは道徳的な見方で考えている。
そうなってくると、今度は「あたりはずれは順番にならないといけない」などと考え、人と結びつけなくなる。さらに進むと、確率のような計算をするようになる。
○子育てに役立つこと
子どもの意見を否定してはいけません。大人がするべきことは、子どもの多様な意見をたくさん引き出すことです。その多様性と豊富さに喜ぶべきです。
●予測
偶然と必然の区別ができない以上、予測は難しい。子どもはすべてに規則性があると思っている。
また小学生が「偶然だね」と口にするのを耳にするが、大人が言っているから自分も言ってみるだけであり、理解はしていない。
●確率
①シーソー
画像のようなシーソーを用意する。
(『子どものものの考え方』(波多野完治、滝沢武久 著。岩波新書)より抜粋。)
あるのは赤い球と白い玉。シーソーを2回動かしたとき、玉はどのような配置になるか予想してもらう。
・7~8歳ぐらいまでは、偶然を予想できない。
すべての玉が元の位置に戻ると予想する。
実際にやって見せても、それにも規則性があると考える。
・7~8歳以上になると、シーソーを1回動かしたときに、混ざることを認めるようになる。
しかしもう1度動かしたときは、元の位置に戻ると予想する。
・10~11歳ごろになってようやく、不規則性を認めるようになる。
○子育てに役立つこと
偶然を認めるということは必然、奇跡を否定することです。
また、子どもの主張には一貫性がありません。それが子どもにとっての普通です。
しかし7~8歳ごろから帰納的な推理をするようになります。それまでは大人が答えを決めるような強制的対話は避けたほうがよいです。たくさん話を聞いて、何を基準に考えているか、ある程度予測することができれば理想です。
大抵は理解ができませんが、子どもの主張を無視することは避けねばなりません。
●因果関係
ピアジェは子どもが認識する因果関係を17個に分類した。
1、心理的・動機的
「大きな山は大人のためにあるし、小さな山は子どものためにある」などと言う。
2、目的論的
「川は海へ行くために流れるんだね」などと言う。このように原因と結果が逆になる主張が見受けられる。8~9歳ごろになっても、「夏はアイスクリームが出るから暑い」と言ったりするが、よくあることだ。
3、現象的
「お日さまは明るいから落ちてこないんです」
「小石は白いから沈むんです」
など、時間的・空間的に近づいたことを、因果関係の中に取り入れようとする傾向がある。
4、溶け込み
「夜になると暗くなるのは、いくつもの影が集まるからです」など、何か類似した共通項があると、それを結び付けようとする。
5、魔術的
呪文を唱えれば、身の危険を避けたりできると思い込んでいる。
6、善悪的
「船は人が乗るために浮かばないといけない」などと、すべての現象に対して、道徳的に説明する。
○子育てで役立つこと
以上の6つが4~5歳ごろの典型です。6歳ごろになるとだんだんとこれらが減っていきます。大人は知覚的に単純に考えてみて、確かに事実と似ていると認める必要があります。
7、人工論的
すべてのものが人間によって造られたと考える。これは大人が子どもの世話をすべて請け負っていることから出発していると考えられる。また、2の「目的論的」が成長したものとも捉えられる。
「川は船が通るために流れるんだね」
↓
「船が通るために、人間が川をつくったんだね」
8、アニミズム的
アニミズムとは有機物・無機物を問わず、すべてのものに魂があるとする考え方のことである。
「山は成長する」
「太陽は生きているから動くんだ」
というように自然を見ようとする。一番低いところだと、「役に立つからイスは生きている」というようになんにでも生命を認めてしまう。次の段階では動くものを、また次には自力で動いているものを生きているとして、次第に動植物だけに絞られていく。
9、力動論的
「水に浮くものは重いものなんです。重いものは水にしがみつく力があるからです。だから軽いものは水に流されるんです」と考える。
○子育てに役立つこと
1~6のような因果関係の捉え方が減ってくると、7~9のような考え方に移行します。ここまで来ると、7歳ぐらいになっています。小学校1~2年生です。いかがでしょう。1~9のような因果関係の主張に関しては、理解できるものが多かったのではないでしょうか?大人でもすぐに否定できない表現を子どもはすることがあります。それは目の前にあることをただひたすら素直に見ているだけだからです。
*ピアジェの提示した因果関係はまだあと8つありますが、この8つはおよそ9歳ごろ以降のもの、つまり小学校高学年になります。そこまで語るとこの記事も長くなりすぎます。またこの記事の目的は、大人が理解できない言動をする小さな子どもの子育てに役に立つヒントを示す、というものにしようと思っています。なのでここらへんで省略したいと思います。
●最後に
・ちょっと知っておこうかな、という勉強意欲が湧いた方もおられると思います。アマゾンでも「子育て 発達心理学」でいくつかヒットします。一般向けに書かれている本もあるので、ぜひパラパラとめくってみてください。役に立つと思います。ただし、書籍を選ぶときに注意したいことがあります。
①有名でない出版社は、内容の事実確認や、科学的証拠などをよく調べないことがまれにある。よって著者以外の学者が見ると、的外れなことを書いていると批判されるような本も一部にはある。なのでできるだけ、学術本を多く出している有名な出版社に限るべきです。
②学者の中には、時代遅れの見解を引きずっている方もいます。著者についてはよく調べるべきです。
③本のタイトルに「入門」とあっても、学者としての入門なのか、学部学生や院生としての入門なのか、一般人としての入門なのか、わかりません。アマゾンの情報だけを頼りにせず、実際に本を手に取って選んでください。
・これまでクドクドと書いてきましたが、私自身は子どもを育てたことがありません。近所の小学生と遊ぶことはありますが、それまでです。
子を育てる親の苦労には到底及びません。しかしながら、私がかじった知識を知らないのであれば、役に立つ可能性もあるのではと思い、長々と書きました。
・このように学術的なアプローチで子どもに近づくと、「子どもはバカではない」ということが感じられます。
子は親の鏡、と言いますが、ある部分では正しく、ある部分では間違いです。子どもも親だけではなく、電子的な情報、つまりネットによって世界中から影響を受けているのです。制御不可能なことはあります。
仕方がありません。
だからこそ、親が柔軟な捉え方をする必要があります。
「バカ」「しっかりしろ」「がんばれ」
という言葉はできれば、子どもに対して言ってはならないものです。それを言われた子どもは、親の気持ちは理解できますが、親が望む方向での解決策を知らないのです。それらの言葉は具体的な存在ではないからです。
記事中でもほのめかしましたが、幼児や小学校低学年、つまり5~9歳ぐらいの子どもは具体的なイメージ(映像)がなければ、それに向かって努力することができません。
だから子どもにハッパをかけるには、何をやらせるかを短いフレーズで明確にし、それへ努力を向けさせるようにしなくてはなりません。子どもが理解できる言葉で、子どもができる目標をかかげ、それへ向かって努力させることが大切です。
参考文献
・主な参考文献は以下。