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本、読み終えた。アレクサンダー・モンロー『紙と人との歴史 世界を動かしたメディアの物語』

 

紙と人との歴史:世界を動かしたメディアの物語

紙と人との歴史:世界を動かしたメディアの物語

 

 

本書目次
第一章 紙の来た道をたどる マルコポーロが見た紙
第二章 文字・粘土板・パピルス
第三章 古代中国の文書
第四章 紙の起源
第五章 中央アジアの発掘から
第六章 東アジアを席捲する紙 文と仏教と紙
第七章 紙と政治
第八章 中国からアラビアへ
第九章 書物を愛でる者たち
第一〇章 本を築く
第一一章 新しい音楽
第一二章 バグダードからもたらされた紙と学問
第一三章 大陸の分断
第一四章 ヨーロッパを翻訳する
第一五章 新たな対話
第一六章 大量に印刷する
エピローグ 消えゆく軌跡
訳者あとがき
 
本記事目次
満ち満ちた詳述
紙の歴史も弁証法的なのか?
言語は紙によって進化した
 
 朝起きてトイレットペーパーを使う。その日一日やることをメモ用紙に書きだす。電車では本を読む。会社やコンビニでコピーを取る。デスクや講義室で付箋を貼る。
 これらの源が蔡倫から始まったのは承知の通り。中国から中東へ、そしてヨーロッパへと伝播したのも世界史としての常識。ではどのような経緯があって?そこには驚くようなものはないかもしれません。
 しかしかつては家畜用だったじゃがいもも、今は様々な料理に使われているように、紙も上級官吏や貴族のもの、あるいは宗教のため、民のためというように用途が変遷していきました。紙を手にし始めた人はどのような気持ちだったのでしょう。中国では竹簡が高級と受け取られていた時期がありましたが、やがては紙にとって変わりました。そのじわじわとした変化をも逃さず筆記したのが本書と言っていいと思います。アッと驚くような感動はないかもしれませんが、歴史の降り積もりを感じることができ、読後は歴史を味わい深いものにしてくれるでしょう。
 本書は蔡倫以前の紙はもちろんのこと、紙以前の粘土板やパピルス・石・竹簡などについても詳しく述べられています。そしてそれらに関わった人や地理さえも。
 
 
 

満ち満ちた詳述

 人によっては紙の歴史から脱線したと思われても仕方ないくらい、詳しく述べられています。ちょっとでも紙の歴史を語る上で出てきた人物は語りつくす。白居易の人生がまるまる載ってたりします。なのであれ、紙は?と思う場面も少なくありません。
 中国のことについてとても多くのページが割かれているのは、著者が大学では中国語と政治学を、その後上海のロイター通信で勤務したからに他なりません。本書以外の中国関連の本の編集に関わっているのも大きいでしょう。本書の5分の3は中国に触れている印象です。
 紙に関する歴史を知るための発掘現場についても詳しい。考古学が好きな方は読んでみてほしい。とてもドラマチックに書かれています。
 
 
 

紙の歴史も弁証法的なのか?

 口と体の動きで言って見せて覚えていた時代から、石や竹簡・絹帛(けんぱく)に移り変わりました。それが紙に変わり、表現の幅が広がり、宗教や詩、小説といったように描かれるものが変化して庶民に伝播しました。やがて紙に書かれているものが演劇という文化(つまり最初の言って見せた形態)になり、ますます紙の歴史が発展したというのは面白いですね。これが弁証法的なものの捉え方だとするとさらに面白いですね。
 口も体の動きも、石や竹簡・絹帛(けんぱく)も紙も伝える技術です。伝える技術が変化するっていいですね。最新技術もあれば、手紙で文通している人もいる。劇を見に行く人がいる。TVドラマを鑑賞する人がいる。石碑を見る人がまだいる。伝える方法がたくさんあるって、いいですね。
 
 
 

言語は紙によって進化した

 伝える方法が変われば、言葉も変わる。調達が難しく貴重だった粘土板や石では余計なことは書けません。竹簡に書いていたのは上級官吏など限られた人たちだけでしたので、言葉も特殊になっていました。それがやがて紙に変わると自由に表現する余白が生まれ、書道も大胆になるのを許しました。
 表現する幅が生まれ助動詞などの品詞も進化したようです。私たちが言葉を操れるのも、紙ありきのものだったのですね。
 
 まだ1回しか読めていません。あまり頭の中でまとまっていませんが、紙に至る歴史と紙に至った後の歴史をじっくり追いたい方は、これほど詳しく述べられた本はなかなかないと思いますよ。
 
紙は、検閲を免れることも、プロパガンダを退けることもできないので、常に質の高い内容だけを届けるとはいえない。真実を届けるという保証すらない。それでも紙は、可能なことは何でもしてきた。そうすることで、声なき無数の読者に力を与えてきたのである。(444ページ)