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On bullshit

読書感想文、社会評論、その他を自分勝手に。

思ったこと 感じたことを そのままに

本、読み終えた。ロバート・L・ハイルブローナー『入門経済思想史 世俗の思想家たち』

 

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)

 

 

 

本書目次

第1章 前奏曲
第2章 経済の革命―市場システムの登場
第3章 アダム・スミスのすばらしい世界
第4章 マルサスリカードの陰鬱な予感
第5章 ユートピア社会主義者たちの夢
第6章 マルクスが描き出した冷酷な体制
第7章 ヴィクトリア期の世界と経済学の異端
第8章 ソースタイン・ヴェブレンの描く野蛮な世界
第9章 J.M.ケインズが打ち出した異論
第10章 シュンペーターのヴィジョン
第11章 世俗の思想の終わり?

 

本記事目次

思想の解説だけではない
描写が細かい
区切りが細かい

 

 経済学の入門と言っても、今はマクロとかミクロなどの本から入るのではないでしょうか。
しかしそれらはすぐにグラフや数式が絡んできて、「つまりどういうことなの?」となることは少なくありません。
この本はグラフも数式も出てきません。
かつ、面白い!
経済学とは本来こういうものなのか!ということがわかります。
本書の特徴を3つ挙げてみます。
 
 

思想の解説だけではない

 思想家の人生や時代背景といったことが、思想の解説よりも前に語られるので、楽しい。また邦訳のなせる業でしょうか、その部分はまるで西洋文学の文中における人物紹介のようです。また最後に読書案内が加えられており、本格的に経済学を学ぶのに参考文献を大量に挙げてくれています。
 
 

描写が細かい

 思想家の人生は履歴書のような書き方ではなく、思想の解説とは関係がないようなエピソードまで盛り込まれています。アダム・スミスの『国富論』の大半が、暖炉のある部屋の壁に頭を擦りつけながら口述したものだとは知りませんでした。また思想家が育った社会環境も細かく描かれています。時代背景として持ち出されるのは産業革命期のイギリスが多い印象です。坑内労働に子どもが使われるようになった経緯なども語られます。本書は小説のように歴史を教えてくれます。
 
 

区切りが細かい

総ページ数543にもかかわらず、章立ては11と細かいです。それに加えて章の中にまた、頻繁に小見出しがあります。2ページほどめくればすぐに小見出しが登場し、文章を区切ってあります。しかもその小見出しにも名前がついているため、何が書かれている文章なのか把握することがとても簡単になっています。
 
 
 歴史に関しては本書のタイトル通りに満足でした。本書の裏表紙には「二十数カ国語に翻訳されて多くの学生を経済学へと誘ってきた名著」とあります。社会環境や時代背景、人物を中心にして語られることで、自分も本書に登場する思想家と同じ時の流れにいる、ということを感じられるからこそ経済学へと誘っているのだと思いました。
 その一方で思想の解説に関しては非常にサラリと触れる程度という印象を受けました。
たとえば、マルクスにおける弁証法唯物史観や上部構造・下部構造も出てきますが、言葉自体知らなかったという方には理解しにくい解説なのではないか、と感じました。これは思想を解説する部分においても小説のような調子になっているからでしょう。また解説がさらりとしているからと言って、不満な面はありませんでした。
 最終章では著者自身の経済学に関する私見が述べられています。それは経済学を科学として理解すべきではないというものです。著者は続いてマーシャルの言葉を引用します。
「経済学は厳密な物理化学とは比較されえない。というのも経済学が扱うのは、人間的自然についての、絶えず変転する、とらえがたい力であるからだ」(P517)
スミス、マルクスケインズシュンペーターは経済を数式で示したのではなく、近からず遠からずかもしれませんが「ヴィジョン」を示しました。経済学は「ヴィジョン」を示すのが役割だ、というように見て取りました。数式では人間の複雑な「ヴィジョン」を示すことはできないと。
 このような最終章の主張があって初めて本書は完成しているように思えます。他の章とは異質な登場人物達が紹介される第5章のユートピア社会主義者達も、何かしらのヴィジョンを立てていたからです。思えば登場人物が予想した未来に関して、必ず説明と評価がありました。経済思想家達のヴィジョンをテーマにした本としてわかりやすかったです。
 この本は経済学の入門書であるだけでなく、経済学とは何かということを、人と歴史を通して学ばせてくれる。そんな気がします。よって本書は経済学(主に資本主義)の歴史を人物に沿って、小説のように眺めてみたい、という方にオススメです。原著のタイトルは『The Worldly Philosophers』で、サブタイトルは『The Lives, Times, and Ideas of the Great Economic Thinkers』なのですから。