本、読み終えた。江戸川乱歩『江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男』光文社文庫
日本文学では泉鏡花とか、上田秋成の『雨月物語』とかの幻想文学のようなものや、『万葉集』などが好きです。
たとえば『押絵と旅する男』はまさしくそうでした。
第5巻は他に、『蟲』『蜘蛛男』『猛獣』と続きますが、これらは幻想的ではありません。
いずれも男が女を殺害する話だからです。
『蜘蛛男』ではあの明智小五郎が登場するので、途中で犯人の計画が頓挫します。
しかし『蟲』『猛獣』は犯人が欲望をすべて叶えた後という悲惨さ。
『蟲』に至っては犯行の残虐さによって一部文章が削除されたり、伏字で文章がほとんどわからなかったりする有様です。
昭和36年の江戸川乱歩全集のあとがきにおいても、当時からエログロ小説であり、探偵小説ではないという批判があったことがこの本に載っている。
確かに殺害していって終わり、と言ってしまえるかもしれませんが、それでも独特の空気感があるのは乱歩のなせる業だと思います。
その空気感は乱歩の蔵に直結しているように思えてなりません。
大学の図書館にもっと雰囲気良く撮れている写真が掲載されている雑誌があったんですが、ネット上にはパッと見、ありませんね。
(乱歩の蔵とその内部。通称「幻影城」)
この本は小説の終わりに当時のあとがき、巻末には地名などの説明が掲載されています。
ファンにとってこれほどの心遣いはないでしょう。
一部の日本文学はなんだか肌に合わないと思っていた私にとって、江戸川乱歩は目から鱗。
原文でも読みやすそうでした。